官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「あなたは……」

 以前ラパンを訪れた、あの女性だった。

「お花ありがとう。いただくわ」

 言われるままに、花束を渡す。

「いい香り。ホテルでお花の用意はあるけれど、どうしても私個人でも用意したかったの。故人には、生前とてもお世話になったしね」」

 彼女――安藤さんは花の香りを嗅いで、優雅に微笑んだかと思うと一転して、好戦的な視線を私に向けた。

「ご存知だと思うけど、今日は貴裕さんのお父様のお別れの会なの。立派な会場でしょう?」

「……そうですね。驚きました」

 さすがに聞かされていないとは言えず、咄嗟にそう答えてしまった。彼女は意地を張る私を、さぞ面白がっていることだろう。

「彼のお父様は人格者で、業界を問わず慕う人が多いの。きっと参列するかたもかなりの数に上るでしょうから、会を開くならぜひうちでって貴裕さんにお願いしたのよ」

「うちで?」

 思わず聞き返した私に、安藤さんが呆れた顔をする。

「あら、ご存知ないかしら安藤グループって。このホテル以外にも事業を展開しているのだけれど」

「いえ、もちろん存じています」

 安藤グループといえば、海外まで事業を展開している旧財閥の流れを組む大企業だ。貴裕さんの相手として、確かに申し分のない家柄だろう。

 彼女との差をまざまざと思い知らされ、私には唇を噛むことしかできない。

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