官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「……ところで、あなたは出席なさらないの?」

 仕事着のままの私の全身に視線を走らせると、意味ありげな笑みを浮かべる。

「いえ、私は……」

 会に呼ばれるどころか、私が彼のお父様の死を知らされていないことなど、安藤さんはきっとお見通しなのだ。

「変なこと聞いてごめんなさい。これはお代よ。きれいな花束をありがとう。きっとお父様もお喜びになるわ。……もちろん貴裕さんも」

 何も言い返せずにいる私に、安藤さんが封筒に入った代金を手渡した。貴裕さんとの家族との親密さを窺わせるセリフに、ズキリと胸が痛む。

 これ以上、惨めな思いをしたくなかった。

「ご利用ありがとうございました。失礼いたします」

 勢いよく頭を下げて、彼女の顔を見ることなく私は従業員のエレベーターへと引き返した。

 私の後ろで、張り切ってスタッフに指示出しをする安藤さんの声が響いていた。


 あの日聞いたこと全部、嘘ならいいと思っていた。でもそうではなかった。

 安藤さんの話を聞く限り、彼女はすでに貴裕さんの家に受け入れられている。

 まだスタッフしかいない会場で、場を仕切ることを任せられるくらい、彼女は貴裕さんのパートナーとして認められている。

 そしてそのことを見せつけるために、彼女は私をわざわざ呼びつけたのだ。

< 69 / 226 >

この作品をシェア

pagetop