官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 薫さんは私と同じ、シングルマザーであり、ワーキングマザーでもある。実は、雄ちゃんの直属の上司だ。

 美人で、柚子ちゃんのこともしっかり見ながら仕事もバリバリこなす薫さんに、一方的に惚れ込んだのは雄ちゃんの方。最初は薫さんもお互いの立場や年齢の差を気にして、なかなかOKしてくれなかったらしい。

 それがとうとう雄ちゃんの猛攻に折れたのが一年ほど前。晴れて二人はつき合うことになった。

 雄ちゃんはつき合ってすぐに結婚を意識して、事あるごとにプロポーズをしている。でも、薫さんはなかなか応えてくれないらしい。雄ちゃんはというと、「まあ気長にいくよ」なんて長期戦も辞さない構えでいる。

 柚子ちゃんも雄ちゃんに懐いているし、うまくいってくれたら私も嬉しい。でも、なかなか雄ちゃんに応えられない薫さんの気持ちも、わかるような気がするのだ。

 体は新しい日常に踏み出していても、心に区切りをつけるのは難しい。悲しい別れを経験しているなら尚更。……私もそうだったから。

「今日すっごく忙しいからお迎え助かる。ありがとね」

「おう、任せとけ。じゃあな」

 パッと片手を上げて、雄ちゃんは慌ただしく出かけていった。

 
< 7 / 226 >

この作品をシェア

pagetop