官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 自分が住むマンションが見えてきたところで、一台のタクシーが停まった。

「ありがとうございます。助かりました」

 懐かしくて温かな声。自分の耳を疑った。

「あらっ、美海ちゃん! ちょうどよかった、今帰り? ……ちょっとあなたどうしたの?」

 故郷の島でお世話になっていた、素子さんだった。両手にお土産らしき荷物をいっぱい抱えて立っている。

「素子さん……」

 急に気が抜けてしまって、私は子供みたいに素子さんに抱き着いた。素子さんはびっくりしながらも、涙が止まらない私を優しく抱きしめてくれた。


「そう、そんなことがあったの……」

 これ以上ひとりで抱えていることができなくて、私はこれまで自分の身に起きたこと全てを素子さんに打ち明けた。

「彼のためにも、本当は子供の事は諦めるべきだったのかもしれない。……でも私には、どうしてもできなかったの」

 貴裕さんを失った今、お腹の子供だけが私の心の支えだった。

 これまでの人生で、私は両親、好きだった仕事、支えてくれた仲間、そして大好きだった人全てを失ってしまった。私は、これ以上誰も失いたくない。

 無謀なことを言っていると思う。素子さんにも、「甘いこと言ってるんじゃないわよ」って、怒られるかもしれないと思っていた。でも素子さんは、そうしなかった。

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