官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「私に名前をつけたのは父よ。父は漁師だったの。どんなことがあっても、海の神様に守ってもらえますようにって美海って名付けてくれた。……それなのに、父自身は海の事故で亡くなってしまったの」

 今でも、あの時のことを思い出すとつらい。まだ高校生だった私は、父の事故をきっかけに島を出ることばかり考えていた。この島のあちこちには父との思い出が残っていて、思い出すだけで苦しかったからだ。

「お母さんは?」

「母も他界してるの。元々体の弱い人だったらしくて、私を産んですぐ」

 母の死に私の出産が関係しているのか、はっきりとはわからない。父は私のことを案じてかそのことを口に出すことはなかったし、素子さんも何も言わない。

 それならば、私から尋ねることもしないでおこうと、自分で決めたのだ。

「美海はご両親を亡くしているのか。……そんなことも俺は知らなかった」

「私も貴裕さんのことをほとんど知らなかったもの。……私達、お互いのことをちゃんと知る前に距離を置いてしまったのね」

 当時のことを、今さら悔やんでも遅い。どんなに足掻いても、過ぎてしまった時間はもう戻らないから。

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