官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「出会ったのは、美海と知り合ったのと同じ頃、知人のパーティーでだ。そこで彼女に気に入られて、後日個人的に会いたいと連絡が来た」

「そうだったの? 私には貴裕さんとは古い知り合いだって」

 出会いから、私が聞いていたのとは話しが違う。まずそのことに驚いた。

「それは違う。美海には俺のことを両家の親が決めた婚約者だと言ったんだろう?」

「ええ、ふたりの結婚が貴裕さんが会社を継ぐための条件だって」

「あいつ、そんなことを。……くそっ! あいつのせいで、俺と美海は」

 貴さんは拳を握りしめると、ドン! と畳に叩きつけた。こんなに言葉を荒らげている貴裕さんを初めて見た。

「貴裕さん、落ち着いて」

 驚いて、思わず彼の肩に触れてしまう。貴裕さんはびくりと体を震わせると、熱っぽい瞳で私を見た。

 あの夜見た、熱情を含んだ彼の瞳。ふたりを取り巻く空気が瞬時に三年の時を飛び越える。

 思わずごくりと唾を呑むと、彼は我に返ったのか、「すまない」と一言謝った。

「それで、君は黙って身を引いたんだな」

「そうするしかないと思ったから……」

 自分がいることで、貴裕さんの未来が変わってしまうなんてとてもじゃないけれど耐えられなかった。あの時はそうすることが最善だと思ったのだ。

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