官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「ヨーロッパ圏への進出は、父親の念願だったんだ。俺はどうしても父の夢を叶えてやりたかった。それに、今になって思えば、毎日を仕事一色にして、美海がいなくなった現実から目を逸らしたかったんだと思う」

 社長就任後、貴裕さんは新事業のために身を粉にして働いた。結果として、私の捜索は人任せになり、安藤さんの介入を許すことになった。

 どうも安藤さんの側近に、切れ者がいるらしい。安藤さんがひとりでここまで考えてアクションを起こすのはあり得ないというのが、貴裕さんの考えだ。

「周りを巻き込んでまでこんなことするなんてな」

「それだけ、安藤さんは貴裕さんのことを本当に好きだったのね」

 私が言うと、彼が眉をしかめる。

「美海はそう思うのか? ……俺には信じられない。彼女に対してあるのは、マイナスの感情だけだ」

「それで、今安藤さんは?」

「さあ。もう俺に彼女の動向はわからない。知りたくもない」

 安藤さんのご実家にも報告し、今後一切貴裕さんとは関わらないと約束させたそうだ。ご両親からは改めて謝罪があったと言う。

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