官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「素子さん?」

「えっ、美海ちゃん何か言った?」

「だから、お客様のお名前は?」

「えっ? ああ、お客様ね。えっと……時田(ときた)様っていう男性の方よ」

「……時田?」

 覚えのある名前に、心臓が音を立てた。貴斗の父親と同じ名字だ。

「そんな大きな声出してびっくりした。どうかした?」

 熱心に掃除をしていた手を止めて、素子さんが私を見た。顔が少し強張っている。そんなに大きな声だったのだろうか。

「ううん、何でもないの。知り合いと同じ名前だったからちょっとびっくりしちゃって」

 素子さんに答えながら、浮かんだ考えを必死に打ち消した。東京でリゾート関連会社の社長をしている彼が、今さらこんなところにまでやってくるはずがない。

「おひとりでいらっしゃるからよろしくね」

「了解、時田様ね。智雄さん、私お客様のお迎えにいってきます」

「おう、頼むな!」

 厨房で忙しくしている智雄さんにも声をかけて、私は足早に外に出た。

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