官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「揶揄われただけよ。別に仲良くなんてしてない」

「そんな真っ赤な顔して言われてもなー」

 身だしなみチェック用に厨房の壁に貼ってある鏡を見て唖然とした。本当に耳まで真っ赤で恥ずかしい。これじゃ、ばっちり意識してますって言っているようなものじゃない……。

「厨房と食堂を何度も行ったり来たりしたから、暑くなったのよ」

 苦しい言い訳だろうか。ニヤニヤしている雄ちゃんに比べ、黙々と魚を捌いている智雄さんの表情は厳しい。事情があったとはいえ、今頃になって迎えに来たと言う貴裕さんのことを面白く思っていないのは明白だった。

「どうすんだよ美海。時田さん、本気だろ」

「どうするって言われても……」

 全て誤解だったからと言って、すぐに元に戻れるわけじゃない。

 もし彼についていく道を選んだら、生活の全てが変わってしまうのだ。貴斗にどんな影響が出るか、想像がつかない。

 それに、ひぐらし荘での仕事を辞めることも、この島を出て東京で生活することも、今の私にはうまくイメージができなかった。

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