官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 要するに、問題は私なんだ。

 小さな島の出身であること。家族とは死別していること。仕事の経験も限られていて、貴裕さんの役に立てるような知識なんて持ち合わせていないこと。

 自分のどこを取っても、貴裕さんに相応しいとは思えない。それなのに、どうして貴裕さんは私が欲しいと言ってくれたんだろう。私に貴裕さんのことを幸せにできるのかな……。

 今はまだ、彼の求めに応える勇気がない。自信がないのだ、自分に。自分でも嫌になるくらいに。

 もっと私に能力があれば、ラパンのオーナーも私を辞めさせたりしなかったんじゃないか。もっと私がしっかりしていたら、素子さんたちにお世話にならずに自分だけの力で、貴斗のことを育てられたんじゃないか。その想いは、この三年間ずっと私につきまとってきた。

「どうしたの、美海ちゃん。ボーっとして」

 いつの間にか、空っぽになった洗濯籠を抱えて、素子さんが戻ってきていた。

「うん……、ちょっと考え事してた」

「そう」

 庭の方から、貴斗がはしゃぐ声が聞こえる。素子さんは、海風がそよぐ庭で追いかけっこをしている貴斗と貴裕さんを見て、笑みを浮かべていた。

「やっぱり、時田さんが貴斗の父親なのね」

 視線はふたりに置いたまま、素子さんが私に尋ねてきた。

「ええ、そうなの」

 私が頷くと、素子さんは「そっか」とだけ言った。

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