13番目の恋人
「ああ、ありがとう。でも……そのソファに座ったら駄目なの?」
野崎さんが、遠慮がちにソファを指差した。……そうだ、何でソファがあるのに床に座らないと駄目なのだろう。
 
「ほ、本当だ、ソファの存在をすっかり忘れてました。馬鹿だ。昨日わざわざ買いに行って……」
「椅子もその時に買った?」
「え、椅子? いえ、椅子は見てません」
「えーっと、椅子はずっと無しで行くの? いや、君の家だし好きにしたらいいと思うんだけど、昨日買えば……だよ? 店に在庫があれば早ければ、今日届いたかもしれないよ?」
 
……馬鹿だ。そうだ、椅子……。恋人が出来たというのに。

「はは、じゃあ、せっかくだから、クッション使わせて貰うかな」

彼はそう言うと、ぼーっとしたままだった私に気をつかって、ソファではなくクッションに座ってくれた。何か色々と空回りだ。

「椅子、今日一緒に見に行く?」
「いいえ、今日は野崎さんに休んで頂こうと、お疲れでしょうし。私は、お隣で寝顔でも見て……」
「……俺、ここで本気で寝たらいいの? 一応……デートのつもりで誘ったんだけど」
 
 野崎さんは苦笑いだ。デート、デートか。
デート、とは。
 
「あはは! 何、どんな認識してたんだよ、恋人だよな?」
「……はい」
「おうちデート、のつもりだった?……わけじゃなさそうだな」
野崎さんは私の顔を見て、そう言った。

おうちデート、とは。

「あまり、恋愛経験がないもので……」
と、恋愛歴を、話すのはタブーとはいえ、ついそう言ってしまった。

世の中の恋人のみなさんは、二人でどの様に時を過ごしているのだろうか。
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