13番目の恋人
「納得した」
彼は、私を見て優しく微笑んだ。納得、とは……

「恋人、の認識というか、俺……この前、そういう事になったよなって思ったんだけど、この1週間、君から連絡が無かっただろ? 俺も何かと忙しかったから、それに配慮してくれてるのかなと思ったんだけど……会社での君を見ていると、ふと、付き合ってるんだよな、と思って」
「はい、あの忙しそうだったのもありますけれど、会社で何をしたら良かったのでしょう」

会社で、何かするのは不可能だし、俊くんにバレたら大変で……。
 
野崎さんのすっとした目が見開かれて数秒
「いや、会社では何も、しなくていいかな。期間限定の交際である限り、君が変な噂をされるのは良くない。だから、君との関係はギリギリまで隠しておきたい。仕事が終わってからとか、休憩時間とか、ふとした時……メッセージとか電話とか……若い女の子はマメなのかなって、俺が勝手に思ってただけなんだ」
 
そうか、恋人ってそうなんだ。会社で見かけるだけで幸せだったもので、全く考えてなかった。
「ご、ごめんなさい」
「いや、……ちょっと待ってる自分がいて……つまり……」
 
彼はスッと私の髪を梳く。その手を頬に移動させると、
「会いたかった」と、優しいキスをくれた。

会社で会ってはいるのだけれど、そういうことを言っているのではないのは、私でもわかった。
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