13番目の恋人
「オフィスの椅子なんかは高さ調整できるもんね。毎日使うものはさあ、ちょっと使いづらいなあとか、おかしいなあに蓋をして我慢して使ってるとさ、少しづつ少しづつストレスが溜まるんだよね、だから毎日使う物は妥協しない方がいい」
「確かに、私ずーっと、テーブル欲しいなあ、って思っていて。床に座っての食事もソファに座っての食事もちょっとしんどくて」
「そうだね、食事は食べやすいのが大事……」
 
私の部屋にあるこのソファは1.5人掛けの小さなソファで、私一人で座るとちょうどいいのだけれど、彼と座ると、ましてや食事するとなると肘は当たるし、狭いし……近い。
その、嫌では……ないんだけれど。むしろ、嬉しいんだけれど、食事中なので何も出来ない。

……何もって何をするつもりなのだろう、私。
 
「何考えてるか、当てようか?」
「え、あ、いえ……」
「後でって言ったからね」
「後っていつかなって」
「まあ、食事中ではないだろうね」
「もう、わかってます!」
「ゆっくりいこう、な?」

ゆっくりしている時間なんて、きっとないのに彼はそう言った。焦る私とは違う、穏やかさに少し虚しくも感じてしまう。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、そっと、自分の、頭を私のおでこに軽くぶつけると、狭いなぁと、笑った。
 
その笑顔にきゅうっと、胸がしめつけられる。嬉しくて、虚しくて、苦しい。
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