13番目の恋人
「あの、野崎さん、結構適当ですね」
「え、そうかな、似合うなって……思ったんだけど」
 
恥ずかしそうにポリポリ頭を掻いている。
 
「野崎さんも、似合いますよ、ピンク」
「あ、俺結構ピンク好き……って、なんだよ」
 
全然似合わないのに、彼はまんざらでも無さそうで、可愛い。
 
「買おうかな」なんて、ピンクのお玉を持って言ってる。

楽しくて、顔が緩む。
「それにしても、ここのコーナーはすごいセンスだな」
「ほんと、一体誰が買うのでしょ」
 と、言って、万里子さんを思い出して
「いや、似合う人はいらっしゃるでしょうね」と、言い直した。万里子さんが似合うかは正直微妙なのだけど。
 
「そうだ、お箸、無かったから買います」
お箸が一膳しかなくて野崎さんには割り箸を使って貰っていた。
 野崎さんの大きな手にぴったりの箸を選んでもらって、店を後にした。
 野崎さんは椅子も買ってくれようとしたけれど……期間限定の恋人と別れた後、残った椅子が元彼からのプレゼントになるのは、とても悲しい。
 
どのみち、この椅子もテーブルも見るたびに野崎さんを思い出す事になるのだけれど、今は考えないでおこうと思う。彼との時間はただ幸せを感じていたかった。
 
誰かとこんな風に過ごすのは初めてだったから。
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