13番目の恋人
私を見ると、彼は眉を寄せた。
「……今、来たとこなの?」
「いえ、かなり前に到着しています」
「……ずっと、ソファ(そこ)に? 飲み物も飲まずに?」
「あ、その……」

彼は小さくため息を吐く。
「自由に、過ごしてって言ったのに。悪かったね。君の家でも良かったんだけど、いつもお邪魔するばかりでは、申し訳ないかなと……何か入れるよ。何がいい? 」
 
腕時計を外すと、カウンターの上へ置く。ジャケットを脱いで、シュルリとネクタイを引き抜くと、椅子の背もたれへと掛けた。
 
「あ、では、ハンガーかけておきます」
「……うん、向こうの部屋、持って行ってもらっていい? 」
 
向こうの部屋がわからなくて、目をうろつかせていると
「俺がいない間に、探険とかしなかったの?」
「ええ、子供じゃないんですから」
 
真顔で冗談を言う彼に言い返すと、ジャケットとネクタイを抱き抱えた。
 
  ……あ、大好きな香りだ。彼の、香り。

「右の、奥ね」
言われた部屋に入ると、そこは寝室だった。なるべく、見ない様にした。誰かと寝るのかな、なんて。クローゼットにハンガーを見つけると、そこに掛けて彼の元へと戻った。
 
彼がミルクティーを入れてくれていた。私はさっきと同じようにソファの端に腰かけた。
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