13番目の恋人
「小百合、先にどうぞ」
 サラッと名前を呼ばれ(2回目)動揺しちゃったけれど
 
「いえ、よ……野崎さんお先に」
 サラッと呼ぶのは失敗した。
 
 そんな私を見て、ふっと微笑んだ彼は
「一緒に入る?」と、言うもので
 
「は、いえ、では、お先に!」と、走った。
 お風呂まで走れる距離があるほど、広い!
 
「ははは!」後ろから野崎さんの笑い声が聞こえた。
 
 あまり遅くなってはと思うけれど、ゆったりとしたお風呂についゆっくりと浸かってしまう。……着替え、どうしたらいいのかな。バスタオルで出たらいいのか?
 
 こういうの、本当にどうしていいかわからない。悩んでいても仕方がないので、えーい、とお風呂から出る。
 
「そこに、パジャマ置いてるから」
 遠くで野崎さんの声がした。

 言われた通り、そこに目を落とすと、新しい下着と女性もののパジャマが置いてあった。
 
 てっきり、彼のシャツかパジャマを貸してくれるかと思っていたのに、こういうものなのだろうか。

「あの、ありがとうございました。ドライヤーを貸して下さい」
「……はい。じゃあ、俺も入ってくるね」

 所在なし。ドライヤーをかけるのにコンセントを探し、終わったら、洗面所に返すべきか、でも彼が入浴中に洗面所に行くのはどうか。
 
 結局ドライヤーを、持ったままさっきと同じようにソファのはしっこに座っていた。
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