13番目の恋人
『会いたい』
 彼からメッセージが入ったのは、彼がうちの会社へ来る最終日だった。
 
 繁忙期も乗り越えたあたりに送別会はしてもらったから、と彼は言った。
 
「私も会いたい」そう答えた。

 私の家へと彼に来てもらった。この『会いたい』が、気持ち上のものではないことをお互いわかっていたと思う。話があるから、“会いたい”のだということを。
 
「お疲れ様」
 ぎこちなく挨拶を交わす。この日は、手土産も何もなく、彼も長居する気はないのだろう。
 
 ラウンドテーブル、それぞれ椅子に座るけれど、とても遠くに感じた。
 
「お見合いの話で、忙しかったんですか?」
 繁忙期が過ぎて、引き継ぎも終わったのか、彼は数日の休みをとっていたのを知っている。
 
私に、連絡がなかったことから、向こうの仕事かその件に忙しくしていたのだろう。

 彼はぱっと顔をあげた。私が言った事がその通りだったのだろう。
「思ったより、ばたばたと事が進んでしまって。ごめん、俺がもう少しうまくやれていたら……」
 
 首を横に振った。
 
「……俺の事で悲しまないで欲しい」
 そう言われて、自分が泣いている事に気がついた。
 
 どうしようもないのだろう。彼も、私も。
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