13番目の恋人
 引き返すべきだと、頭は冷静に判断する。
 やめるべきだと。
 一度恋愛で失敗している俺にとって、今、彼女とそんな関係になったとしたら、俊彦と同じ様な別れ方をしなければならない。他の女性と結婚するから、別れるなどと、俊彦と同じ事を彼女にしてしまう。それに同情した俺が、同じ振り方をしたならば、彼女がどれ程傷つくか。
 
 頭に反して、勝手に手が、体が、動く。
 触れるだけのキスで止めたのは、最期の自制心だったと思う。それでも、すべきではなかったと、後悔する羽目になった。
 
「恋人になりたい」そう言った彼女を拒絶することは出来なかった。同じ失敗を繰り返してはいけないのに、俺も、それから、彼女も。
 
 背徳感が、お互いの気持ちを盛り上げたのか、彼女の瞳に俺がうつると、とんでもない満足感に襲われた。幸せにしてやれないのに、幸せにしてやりたいと思った。
 
 俺が頷かなければ、大宮と恋人になるのだろうか。それとも他の……あのリストに載っていた別の、11人の誰かと恋人になるのだろうか。
 
 彼女に、とって、その方がいいとわかっているのに、俺は彼女に頷く。
 
 それでもいいと、結婚できなくても、恋人になれればそれでいいと、彼女は言った彼女に。
< 161 / 219 >

この作品をシェア

pagetop