13番目の恋人
 俺は、確実にそんな彼女に惹かれつつあった。過去の男に嫉妬するくらいに。
 
 だけど、付き合った男は12人……その割りに、ここにも違和感があった。
 
 その日のデートにしても、何かあるわけでもなく、彼女の家に呼ばれた。俺を休ませるつもりにしても、何かおかしい。
 
「経験が少ないので」彼女はそう言った。あの飲み会の席でも、そう前置きして、過去に付き合った男性の数は12人と言ったもので、オイオイと思ったのだが
 
 今、再びそう言われて、納得した。

 俺が連絡するまで、電話もメッセージもなかったことも、素材だけ買い込んだ、冷蔵庫いっぱいの食料も。椅子がないのも、慌ててクッションを買ったのも、酒を飲むのも初めてに近かったことも。
 
 俺のキスに体を強ばらせるのも。
 彼女はきっと、“経験”が本当に少ないのだ。男たちが噂する、彼女の見た目からの情報などイメージに、すぎないのだ。
 
 この前、俺を簡単に家に入れたのも、今日、こうやって家に呼んだのも。
 じっと俺を見上げてくる。黒目勝ちな潤んだ瞳……艶やかな唇。男を簡単に信用しては駄目だと、それからじっと無防備に見つめるのも……駄目だとは、知らないのだ。
 
 純真無垢な中身と色気漂う外見とのギャップ。
 
 ……続いては、彼女からの容赦ない“男女における”質問。これ、相当な自制心。試されてるのか。さっきから、近寄りすぎて胸が当たる。
 
 ステップ、などと言ってみたけれど、自分への戒めだ。

 俺は、確実に彼女に惹かれていた。過去の男(俊彦)に嫉妬するくらいに。
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