13番目の恋人
 その意味をすぐにでも聞きたかったのに、俊彦はなぜか
 
「小百合の父親は、末っ子長男なんだ」
 彼女の父親の話を始めた。
 
「なんだ、それ」
 いや、知ってる。“末っ子長男”の意味は。上に姉が一人か何人かいるのだろう。
 
「ただでさえ、姉や兄とも年が離れているってのに、親戚中合わせても小百合だけ年が離れていてな。皆が赤ちゃんの可愛さを忘れた頃に産まれた赤ちゃんで、しかも女の子とあれば、それはもう……溺愛だ。いや、超溺愛だ」
 
「あ、ああ。そうなんだ」
「俺が中学生の頃、あいつの兄貴が言った。『妹、超可愛い』と」
 
 俺は今……何の話を聞かされているのだろうか。
 
「分かるか? 中学生の多感な時期に幼い妹がいるということは、“お前んちの両親仲いいんだな”みたいな、下世話なからかいをされるものだ。だけど、あいつ、慶一郎は堂々と『妹、超可愛い』って言ったんだ。それから俺に言った。『どうしてもって言うなら、見せてやってもいいけど』と、どや顔で」
 
 やはり……何の話を聞かされているのだろうか。俺はポカンとしたまま、続きを聞いた。
 
「それが、初めて俺があいつんちに行った時の話。そこから、家族をあげての俺への“小百合は可愛い”という、英才教育が始まった。いや、実際可愛かった」
 
 俊彦は昔を懐かしむような遠い目で、今も可愛いけどな、と、ぼそり呟いた。
< 166 / 219 >

この作品をシェア

pagetop