13番目の恋人
「まだ、彼女の意思を確認しただけだ」
 
 俊彦は、大きく息を吐いて、俺を指差した。
「……まあいい。本気で結婚出来た時まで手出すなよ」
「……お前は、結婚するまで万里子さんに手ぇ出してないんだな?」
 
 と、言ったら黙った。
 
「何にしても、一番上手くやれる方法を考えなければならない。城を落とすには、外堀を埋める。姫を手に入れるには、まずは城を落とす方法を……」
 
 こいつの今の発言から、先程のセリフは、アニメ由来ではなく、時代劇由来のセリフだったのだなと、ここで確信した。

「まずば、問題提議からだ」
「そうだな、まず言われるとしたら、俺の年齢、それと、過去の婚約破棄。俺の方面からは……その、お前の元彼女であると思っていたので、身辺調査をされたとしたら、そこが引っかかるかと思っていた」
 
 以前の恋人の件で、うちの親も相手に慎重になっているし、そんな中途半端に漏れた婚約破棄の噂を、俺が会社に戻るタイミングで遜色ない女性との婚約発表で払拭させたいという意図があるのだろう。
 
 わざわざ噂を冷まさせるために俺を外へ出したのだ。勿論、経営ノウハウの勉強の意味もあるだろうが。
 
「小百合の方はそんなに条件は厳しくないはずだ。長男の慶一郎が会社を継いで、長女の藤子さんが本店を継いでる。小百合は、嫁がせるだけで、相手に家業をどうこうはないからなあ……」
 
 そうか、婿養子などと言われることがない分、そう障害の壁は高くないのかもしれない。
 
 そう思ったのも束の間……
「もう一つ、問題がある。お前側としても、小百合側としても」
 
 俊彦の表情から、一筋縄でいかないのだろうと言うことがわかった。
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