13番目の恋人
「小百合は老舗和菓子屋の娘だ」
「……俺は……」
 
 うん、と俊彦が頷く。
「現代のロミオとジュリエット」

 こいつ、楽しんでるなと、俊彦を睨んだ。
 
「洋菓子屋に嫁がせるとかどうなんだろう……。今の時代、和菓子のライバルが洋菓子とかそんな単純なものでもなく、別物だしなあ……はっきり言って、小百合の身内がどんな反応をするか、皆目見当もつかない。ただ、一つ言えるのは……“見合い”までこぎ着けたら、ほぼ結婚できるだろう。ルートとしては、お前側としても小百合側としても恋愛結婚より見合い結婚という形をとる方が、上手くいく。上手くいくというのは、結婚までということだぞ?」
 
「わかってる、結婚後は、心配してもらわなくても、大事にするつもりだ」
 
「ああ、頼む。さて、とりあえずどうするかな。洋菓子……か。上の(頭のかたい)世代より、同世代から落として行くか。頼人、言っておくがな、あいつの兄も、父親も、祖父も……女性たちも俺より酷いからな」
 
 そう言った俊彦から悟る。《《厳しい》》のではなく《《酷い》》のか。そうか。俊彦でも大概な溺愛ぶりなのに……。
 だけど、考えてみれば、そこまで愛されて育った彼女となら、俺も……幸せな家庭を築けるのではないかと思った。
 
 彼女は、家族揃って大きなテーブルで食事をすると話していた。テーブルが広すぎて寂しいと。三世代が揃って座れるテーブルなんて、随分と広い。よほど立派なリビングなのだろう。
 
 考えたらそうじゃないか。
 小さなラウンドテーブルで、身を寄せてくる彼女を思い出しては、胸が擽られる。彼女が、そんな家庭の娘であることを心から感謝した。小百合と結婚出来るかもしれない。いい年して嬉しさで胸が震えた。
 
 絶対に、幸せにする。だから、少しだけ。出来だけ急ぐから……待っていて欲しい。
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