13番目の恋人
 その日から、怒涛の忙しさだった。
 年内で辞める仕事の引き継ぎ、自社の件。それに加えて、自分の見合いの件。合わせて、彼女の外堀を埋める件……だ。
 
 俊彦は、彼女側の身内の信頼を得ているだけではなく、俺側の信頼も得ている。尚且つ、俺の両親からすれば、俺を一時的にこの会社へ呼んでくれた恩もある。
 
 つまり、彼からの紹介での見合いとあれば、変に小百合の身辺を調べたりしないだろう。調べられたとしても、問題はないのだろうが、調べられると、時間がかかる。だから、俊彦の紹介というのは、時短という意味でも非常にありがたかった。
 案の定、うちの方は問題なかった。少し若くないかという苦言はされたがそこは俊彦が上手くやってくれた。お陰で深く調べられるような事はなかった。
 
 あとは、彼女の方。これは、過去のある俺の方が不利で……彼女の家族全員に会って説得する心持ちでいた。
 
 忙しい最中に俊彦と、それから彼女の兄に無理を言って協力を仰いだ。つまり、彼女の身内で《《本当の事》》を知っているのは彼女の兄だけということになる。
 
 彼女の兄は俺に一定の理解を示してくれた。過去に対しても。
 
「こんな家に産まれたら、そんな女も寄ってくる。誰だって経験してるさ」と。
 
 それより、小百合をどう思っているか、それには徹底的に誠意を示したつもりだ。
 
 その甲斐あってか、兄の慶一郎も協力してくれることになった。
 深夜の個室の飲食店で、まさか、俊彦が中学生の時に受けた《《英才教育》》とやらを受ける事になるとは思わなかったけれど。
 
 俊彦が『厳しい』ではなく『酷い』と言った意味を身を持って経験させて、頂いた。慶一郎と俊彦は事あるごとに、まるで合言葉のように「良縁だ」「良縁だ」と言い合っていて、俺を認めてくれたという意図の他に、口に出すことで自分達を納得させているようで苦笑いした。
 
 ……全く、溺愛だな。
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