13番目の恋人
「あの頃は、西洋のものなら全部良しといった風潮があったかもしれません。だけど、僕はこの日本独自の文明も、素晴らしいものだと思います」
 
「そうだな、和菓子や日本の物は消えずに残ってる。時々は混じっても……あ、いいな。新商品、そんなのも……」
「ビジネスは一度置いておけよ」なんて慶一郎は突っ込まれて、場が和やかになった。
 
 彼女の家を後にすると……脱力した俺に慶一郎が笑った。
 
「すまないな、大家族で」
「いや、我が家も似たようなものだ」
「あとは、俺から小百合に話をしておく」
「ああ、ありがとう」
 
「なあに、堂々とお義兄さんと呼べ」 
「……いや、ああ」
 慶一郎はニカッと白い歯を見せた。それから、意味ありげに、尚且つ往生際悪く俺の肩を掴んで、むう、と唸った。可愛い妹の夫として、認めてくれてはいるのだろうけれど、なんというか、シスコンというか。シスコンにも程があるというか。
 
 あとは、本人と会うだけとなった。それにほっとする。“婚約”という形を取れればそれでよかった。
 
 引き継ぎ、繁忙期、自社のカフェ展開準備、婚約発表への下準備。やることは山ほどあって気づけばクリスマスも終わっていた。
 
 引き継ぎの日野主任が優秀で本当に良かったと思う。でなければ、年内に間に合わなかったと思う。……彼もあのリストに入っていた。
 選ばれし男……か。今さらながら、自分と比べてみたりして、止めた。そんな気持ちでいては幸せに出来ない。俺が、幸せにする。それ以外はない。
 
 年明けには正式に、彼女と会えるのだ。誰にも邪魔されず、誰もが祝福してくれる状態で。
 
 彼女に相手が俺で良かったと思ってもらえるように……努力するだけだ。
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