13番目の恋人
 小百合は、とてもおとなしい性格だ。自己主張もほとんどしない。
 
 クリスマスの約束が過ぎていても、俺を責める事はなかった。自分から俺に望んだのは何もない。

 いじらしい姿に全部打ち明けたくなる。……可哀想で。
 年末年始には、見合いの準備でほぼ実家にいるだろうから心配ないと慶一郎は言ったけれど……ここで俺が話してしまえば、台無しになる可能性もあった。なるべく早く。見合いは立春の時期にしてもらった。
 
 
「お見合いの話で、忙しかったんですか?」
 そう訊いた小百合に、見るに見兼ねた誰かが打ち明けたのかと思ったが、そうではないらしい。

「思ったより、ばたばたと事が進んでしまって。ごめん、俺がもう少しうまくやれていたら……」
 彼女は静かに首を横に振った。
 
「……俺の事で悲しまないで欲しい」
 俺に言えるのは、このくらいだった。長くは待たせない。その時まで。
 
 彼女の仕事の事は、彼女の意思を尊重するつもりだった。結婚が決まれば話し合えばいい。

 小百合はどこかいつも諦めたように笑う。いつも、誰かの提案に静かに頷く。これが彼女の優しさだ。相手を傷つけたくないのだろう。
 
 彼女は何も欲しがらない。俺にも、何も求めない。
 
 ただ一つ、小さなキスをせがんだことくらいだろうか。
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