13番目の恋人
 彼が立ち上がり、閉めていた障子を開けた。
 
「綺麗……」

 紅梅、白梅、早咲きの蝋梅。その根元には輝くような色をした福寿草。さっきは、花なんて咲いていたかどうかも見られてなかった。
「福寿草は、太陽の光を浴びると開くからね。今日、晴れて良かったね」
 
 艶やかに椿の葉が光を跳ね返し、一際目立つ紅色の花びらが揺れる。
 ああ、ほんとうに、なんて綺麗。
 
 部屋にふわりと梅の花の芳香が広がる。ここから庭が楽しめるような作りになっているのだろう。
 
 真冬真っ只中なのに「立春」の今日は春の始まり。新しい年の始まりだ。
 
「俺たちも今日から、新しい関係を……」
「はい」
「ああ、やっぱり、似合うね、この着物」
 そう言って、キスをくれた。
 
「障子、もう一度閉めようかな」と真顔で言うから
「この帯はさすがに自分では出来ませんからね」と、忠告すると、頼人さんは困ったように笑った。
 
「困らせてますか、私」
「そうだね、幸せすぎて、困る」
 
 そう言って、キスをして、また笑って、もう一度キスをくれた。
 
「さあ、庭に出てみる? それともどこかでデートする? 」
「頼人さん、大好きです」
 
 言いながら、また泣いてしまった。頼人さんは、そんな私に、もう少しここにいようかって困ったように笑った。
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