13番目の恋人
「付き合ってから、全然恋人らしいこと出来てないから」と、色々連れ出してくれた。
 
 頼人さんと出掛けるとなぜだか幼少期の事を思い出してしまって……ああ、そうか。いつも家族の誰かがどこかへ連れていってくれた時、私が楽しむのを微笑んで見ていた、あの感じに似ているのだ。
 つまり、頼人さんは“私が楽しむ為に連れてきてくれている保護者”みたいになってるんだ……。
 
 それに気づいてから、デートというよりは……子供のお出かけだ。連れていって貰ってる感じがいつまでも抜けない。
 
 「頼人さんって、お父さんみたい」
  私を見守る優しい瞳にそう言うと
 
 「……」
  傷ついた顔をされた。ごめんなさい、だって。
 
 「あー、まあ。いいか? 父親とこうやって手を繋ぐのはおかしいだろ?」
頼人さんは得意気に繋いだ手を持ち上げて見せた。
 
 「……」
 「おかしくないな。父親とは手を繋ぐな」
 
  ちょうど、小さな女の子が両親に手を繋がれて通り過ぎた。その女の子を見る頼人さんの目が複雑そうで吹き出す。
 
 「あはは!」
 「どうせね、おっさんだしね、君からするとね」
 「そのうち、本当の子供が出来たら“お父さん”になれますよ」
 
  そう言うと、なぜか頼人さんは女の子の後ろ姿を見つめたまま動かなくなってしまった。
 
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