13番目の恋人
 その日、俺はゲストとしてその場にいた。
 いつもの常務室ではなく。会議室でもなく。
すでに懐かしく感じる。
 
 ゲストとして呼ばれたのは俺だけでなく、老舗望月庵の若き香坂専務。この人、超がつくほどスピーディー。
 
 負けてられないな、と俺も思う。
 
「イメージとしては、モダン」
「クラシック? カフェより喫茶店みたいな感じか」
「洋館みたいな」
「そのイメージで一度うちの企画に投げて、何点か提案しましょう」
 と、俊彦が吸い上げる。
 
「場所の候補は、今ね……ここが上がってます」
 と、資料を渡される。
「いいですね。その場所なら、結構な集客が見込めるかと」
 
 ──
 
 あの日、何気に言っていた店舗が実現する運びとなった。和菓子に洋菓子が……どちらも扱う店が出来る。
 
 大正ロマンのように、古き良き日と現代の融合。年齢問わず入りやすい外観に決まる。
 
『デパ地下でスイーツを選ぶ時ね、あっちの店、こっちの店って手荷物が沢山になっちゃうでしょ?一緒に箱に入れてくれたらいいのに』
 万里子さんの言葉を汲んで
 
 同じ店でN.の洋菓子と望月庵の和菓子が食べられる様になった。
 どれも、そこの店では少し小さめの作りだ。どちらも、食べられるように。

 ちょっとだけをコンセプトに。そこの店舗限定の小さめのケーキが並ぶ。それから、生菓子も。
 
「まさか、ケーキ箱(キャリー)に入れられる日がくるとは思わなかったな」慶一郎が苦笑いする。
 
 白い取っ手付きのお馴染みのケーキボックスに和菓子がケーキとともに載せられていた。
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