13番目の恋人
 実家に帰った時、本棚から大切にしていた1冊を取り出した。
 
 “眠りの森の美女”
 この本を呼んだ時、自分と重ねて悲しくなった。
 何の苦労もしたことがない、蝶よ花よと大切に大切に育てられた。
愛されることが当たり前の眠り姫を自分に重ねた。私は、みんなの人生を巻き込んだ、眠り姫なのかもしれないと。
 ゆっくりとページを捲る。
 
「それ、懐かしいね。まだ持ってたのね」

 そう言われ、ふり返ると姉だった。
 
「うん、懐かしいでしょ」
「小百合は眠り姫がお気に入りだったものね。シリーズで色んなプリンセスがいるのに、いつも眠り姫の話ばかり読んでた」
 姉の目には、何度もこれを読む姿が《《お気に入り》》に見えていたのか。
 
 眠り姫は幸せになったのだろうか……100年も前の……古くさいドレスを着て。
 
「ねえ、お姉ちゃん、眠り姫は幸せになったのかな?」
「決まってる。ハッピーエンドだもの」
「一緒に眠らされたお城の人が気の毒じゃない? 城の外の人とは会えなくなっちゃったんだよ?」

「森の奥の奥の奥の方にあるお城でしょ? 城の中がもう、街でしょ。全員住み込みというか、住んでるでしょ」
 あっけらかんと姉は言った。
< 209 / 219 >

この作品をシェア

pagetop