13番目の恋人

　小百合が見合いの席で着ていた大正時代の着物は、大切に取り扱われたとしても、もうすぐ着られなくなるらしい。絹の寿命は100年ほどなのだそうだ。淡い紫が小百合の白い肌とよく合っていて、本当に綺麗だった。見られて良かった、間に合って良かったと思う。
　
「100年も前のものがここにあって、それが似合うって凄いなあ」思ったまま、口にする。
　
「着物はね、現代では出せない色や模様もあるみたいですよ。大正ロマン。素敵ですよね……。私はパーソナルカラーによると、こういう色が似合うみたいで。……パステルピンクとかは似合わないなあ」
　
「え、そう？ 小百合は、どんな色でも似合うけどなあ」本気で言ったのに
「ふふ、頼人さんって、ほんと適当ですね」
　と、言われてしまう。
　
「そんなことないよ、だけどこの着物はほんっと似合ってたな」
　小百合があの日を思い出してか瞳を潤ませる。そっと薄い肩を抱き寄せた。
　
　小百合は、よく俺の事を“13番目の恋人”だと言う。小百合に12人も元彼がいないことを知っているから、平気だ。
　
　「どういう意味？」
　「運命の人ってことですよ」
　
　小百合はまだ時々敬語に戻る。
　
　だから、次のステップは、ちゃんと対等に過ごすって事でどうだろう。
それが何番目のステップかは、もうわからなくなってしまったけれど。



──end