13番目の恋人
「何だ……これ」
「ふ、わっ」
慌てて彼の手から書類を引き抜いた。

「き、機密事項です」
「ふうん、そっか。なら落としたらいけないね。気をつけて。じゃあ、失礼するね香坂さん」

彼は赤面しているだろう私を尻目に常務室へと入っていった。

見ら……れた。 見られちゃった!

室長、俊くんに聞いたりするだろうか。そしたら、俊くんはちゃんと彼に説明してくれるだろうか。

そう思って、はた、と気づく。あんなリスト、どう説明するというのだ。

はぁっと息を吐く。いや、きっと彼は興味がないから大丈夫だろう。そう思うことにした。

──家に帰って、リストに目を通した。私と同年代の男性たち。会社では、新卒の私が一番若い年だ。

このリストに載っている男性も同い年から30代前半くらいか。……若いな。

そうか、私は姉と兄を見て育っていたので10歳くらい上の人をつい恋愛対象に見てしまう。同い年……か。確かに年下の男性となれば、まだ“結婚”なんて考えにくい年齢だ。同い年でも、男性ならまだ早いと言われる年齢だ。

リストに載っているのは13名。名前と年齢の羅列だけ。これを見ても何のリストかわからないかな。

そこに、室長の名前があってドキリとした。あの人……独身なんだ。俊くんと同い年……

もう一度、ドキリとした。そこに、書かれた俊くんの手書きのメモ。

“こいつだけは絶対にダメ”

そう書いてあった。絶対に……ダメ?

なぜか私はその時、あの塔に登ってはいけないと両親から言われていた、眠り姫を思い出していた。
< 25 / 219 >

この作品をシェア

pagetop