13番目の恋人
第5話

小百合

──週明け
いつもと違うのは、心持ち。にこやかに、にこやかに。休みの間に笑顔の練習もした。

すれ違う社員にいつもの様な形ばかりの会釈ではなく
「おはようございます」
笑顔で、意識して目を見て挨拶をした。……なるべく、感じよく見える様に、仕事とは違う砕けた笑顔、のつもり。

「おはよう……ございます」
直ぐに目を逸らされて……失敗なのだなと悟る。感じ良くないのか……。めげずに、次の人。

だけど、みなさん同じ様な反応だった。がっかり。

エレベーター前で、誰かが並んだことに気がつき
「おはようございます!」
その人を見上げて、とびきりの笑顔(自分なりの)で挨拶をした。少し、元気良くなりすぎたけれど。
「ああ、おはよう。はは、元気だね」
その人も笑顔を返してくれて嬉しくなって
今度は自然に笑えた。

その人は少し驚いた顔をしたけれど、同じ様に微笑んでくれた。

わっ、……室長だ。脊椎反射的に笑顔を作って挨拶してしまって、彼を認識し、急に恥ずかしくなって、合わせたままだった視線を外して俯いた。

えっと……何か話すべきかしら。二人きりのエレベーターは静かで、時々各階の話し声が遠くで聞こえた。

緊張で、私は呼吸音と心臓の音まで彼に聞こえやしないかと心臓を止めるのは無理なので、息だけを止めた。
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