13番目の恋人
「“好きになってはいけないあの人”ではなく、経営企画室長の野崎」
「……はい」

俊くんが急に常務に戻った。

「そんな言い方してたら、気になってきちゃうだろ、ダメだって言った意味がない。お前は男に免疫がないのだから。出きるだけ、問題なく平和に、大事にされて結婚しろよ」
「……はい」

やっぱり俊くんに戻った。

「リスト、見たよな」
「はい、見ました」
「ん、じゃあ、進展があったらと、テーブルが届いたら連絡。いいな」

恋人候補と、テーブルを並べて再確認された。何だか、やりきれない気持ちが出て来て
「恋人出来たら報告しなきゃならないの?」
恨みがましく言ってしまった。

「……女子は、彼氏出来たら“彼氏出来たー”ってすぐに友達に、報告するもんじゃないのか?」
「常務は友達ではありません」
「……そうだけど。心配だろ、俺だって」
「そんなに心配なら俊くんが貰ってくれたら良かったじゃない」
「う、グェホッ」

俊くんは私の入れたコーヒーをすする時に、手と口のタイミングが合わなくて、むせたっぽい。

「大丈夫ですか?」
慌ててティッシュを渡すと、口を拭って一息つく。

「お前ねぇ……」
「何? 俊くんならみんな喜んでくれるのに……」

ああ、ダメだな。私はこの人の前では随分と幼くなってしまう。
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