13番目の恋人
「……まあ、そうだな」
「お姉ちゃんと結婚するつもりだったんでしょ。それは良かったの?」
「はは、うん。昔の口約束だったけど、俺はその気だったよ。綺麗だし、藤子さん。でも、藤子(とうこ)さんずーっと、(みのる)さん一筋だし諦めもつくってものだよ」
「じゃあ、私とってならなかったもの?」
「藤子さんが駄目なら小百合みたいな失礼なこと誰も望まないよ」

……全然失礼じゃないのに。

「はは! ほら、拗ねない拗ねない。小百合の事、そんな風に見たことはなかったなあ」

こうやって、直ぐに拗ねてぷうっと頬を膨らませてしまう。そんな私を俊くんが恋愛対象に見るわけもない……。妹みたいなものなのだろう。実際に兄とは違い、距離感がある分、猫可愛がりの孫に近いのかもしれないな。

……昔は、『恋人』って言ってくれてたのにな。

「冗談だよ、あんまり私に構うと俊くんも、恋人に逃げられちゃうよ」
「……大丈夫だよ」

俊くんは複雑そうに笑って
「多分」
と、ぽつり言った。

「では、朝のミーティング以上でよろしいですか」
時計を見ると、就業時刻ちょうど。ここからは完璧に仕事モード。

「コーヒー、入れ直しましょうか」
「ああ、頼む」
「次のアポイントの書類、フォルダ入れてます、ご確認を」
コーヒーのカップを常務の前に静かに置いた。

「了解。……あっつ」

そ、いつもは飲みやすい温度にするけれど、熱いままに置いてやった。恨めしそうにこちらを見る常務を背に、部屋を出た。

このくらいの意地悪、いいでしょう?
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