13番目の恋人
「今週は比較的オフィス仕事が多いわね」
万里子さんがスケジュールを確認しながら、そう言った。
「そうですね」
「……親睦といきましょうか」
「ええ、急ですね」
「うちの会社の繁忙期そろそろ始まるのよ。だから、余裕が無くなる前に、早いに越したことがないわ、何事も」
……忙しくなるのか。ただでさえ余裕ないのに。私って、思ったよりどんくさいのだな。

「今日、営業の子たち飲みに行くって言ってたわ。大宮くん、声かけてみたら?」
「……大宮……さん?」
「ちょっと、あなた同期も覚えてないの? 常務の得意先の人は完璧に覚えているから、記憶力がすごいのかと思ってた」
「社内まで気がまわらず……万が一覚えてなくてもそこまでトラブルにはならないかと、後回しに……」
「いいわ、続きはお昼休みに話しましょう。きっと、社食で会うだろうから」
「はい」

だけど、“大宮”という名前には見覚えがあった。顔がわからないのに、名前には見覚えがあるということは……きっと、俊くんのリストに入っていた人だと思う。同期ということは、一番若い男性だろう。そして、リストインしているということは、俊くんのお眼鏡に叶った人だということだ。

ただ、それだけのことだけれど、お昼休みが少し楽しみになった。練習していた笑顔、お昼にもう一度披露しよう。自分の頬を指先で円を書くようにほぐした。
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