13番目の恋人
いつだったか、万里子さんに教えて貰ったことを思い出していた。秘書は孤独だと言った私に、役員はもっと孤独だって。だからこそ、私達がその橋渡しを出来たら、と。

口を開こうとした時、目の前の野崎さんの視線に気づいた。意味ありげに頷く。恐らく“余計な事は言うな”ということだろう。もちろん、私と常務の関係は言うつもりはない。私も、彼に“もちろんです”と視線を送った。

「……常務は、とても、仕事熱心な人です。常に先を先をと考えて、私の方がお世話になっているくらいで……見た目は怖いかもしれませんが、とても優しい人……」

常務のいいところ、常務のいいところ、もちろんたくさんあるけれど、皆がもっと親近感を持てるような紹介を……と、思っていた。

「イケメンよね」

え?そっち?

「……彼女いるのかなあ」

え?そっち?

「そりゃあ、いるでしょう。あのお年で独身ってやっぱり相手を厳選しているに違いないわ」
「そうよねえ、羨ましいなあ。一緒に仕事出来るなんて」

野崎さんが肩を震わせた。

「悪い、なんか香坂さんと君達の温度差が……ミーハーじゃないから、彼女は秘書に選ばれたのかもよ」
なんて、女性達に言っている。もしかしたら、私が秘書になったことを疑問に思っている人が多かったのかな?
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