13番目の恋人
「送る」
店を出ると、野崎さんがそう言ってくれた。たくさん女性がいるのに、私だけを送るのは……気まずく思い、遠慮した。

「大丈夫です、近くですので。他の女性に怒られます」
「あー、俺が怒られるから、送る。向こうは団体だから、大丈夫だよ。家の方向が俺と同じだと話を合わせておいて。酔ってるってことにしてね」

ここで揉めるのもどうかと頷いた。
「室長! 香坂さん相当酔ってるから、頼みますよ」
大宮くんは野崎さんが私を送りやすい様に口添えしてくれたのだろう。

「だいたい、みんなも悪ノリしすぎ! 香坂さん割りとノリ良かったっすよね、また、いきましょ」
そんな大宮くんの声が遠ざかって言った。

「酒、弱いよね、君」
「わかりません、こういう場は初めてなので」
「嘘だろ……酒は飲んだことあるよな?」
「はい、家族と食事の前に」
「前?」
「食前酒、飲みませんか?」
「食前酒しか、飲んだことないのか?」
「はい、でも……食前酒はお酒ですよね」
「……。君に苦言を。恋愛遍歴は人に話さない方がいい」
「はい……」

彼はため息を一つ。それ以上何も話さなかった。

そこからは、コツコツと私達が歩く音だけ。この日は風がずいぶんと強いのか、街路樹が酷く揺れていた。
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