13番目の恋人
どう考えても、野崎さんがこの部屋にいる事以外の違和感は全くない。
 
野崎さんも私に対して適度な距離感があるし、大して接点はなかったとはいえ、会社といる時と変わらない。男女として何かあったということは絶対にない。
 むしろ、ほのぼのした時間を過ごしていた。

「あの、昨夜は風が強かったのに、今日は穏やかに晴れてますね。木がぐわんぐわん揺れてて、野崎さんは帰り道、大丈夫でしたか?」

 ……変なこと言ったかな。
 野崎さんは、さっき私に『見すぎ』って言ったくせに、今度は私をじっと見ていた。
 ぐわん、ぐわんっておかしかったかな。
 
「昨夜も、穏やかな夜だったよ。天気はね」
「……木が揺れて」
「揺れてたのは、君……かな。えっと、覚えてないの?」
「そこから、記憶が……」
「じゃあ、俺がなぜ……ここにいるかも……」
「わかっていません」
 
野崎さんの優しい目が見開かれて
「君ねぇ! じゃあ、この状況に違和感、感じただろう? え、何、普通に受け入れてるんだよ、来るんじゃなかったな。いや、良かったのか……」
 訳のわからない事を言われて、首を傾げた。
 
「君に……あー、いくらおっさん臭いと思われようと忠告したい。酒を言われるがままに飲むのも、男を部屋に呼ぶのも、それから……危機感を持ちなさい。俺が悪い男だったら、何されてたかわからないんだよ」
 
おっさん臭いというのがどの部分を指すのかわからずに、もう一度首を傾げた。
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