13番目の恋人
「だから、ほら、見すぎ。これ食べたら俺は帰るね」
野崎さんがそう言って、私は、ようやく瞬きを一つ出来た。
 
「……あの、野崎さんは付き合った人数は」
何か話さないと、野崎さんがすぐに帰ってしまうと思い、つい聞いてしまった。

野崎さんは酷くむせこんだ後で、優しくはない表情で
「答えないよ。酒も飲んでないし、飲んでも言わない」と、固い口調で言われてしまった。

「ごめんなさい、私が先に言ってしまったものだから、野崎さんの恋愛歴を聞いたら、おあいこになるのかなって。それに……聞いたとしても、私にとって、野崎さんの過去なんて、関係なくなるんでしょう?」
 
野崎さんは、険しい顔をしたまま、動かなくなってしまった。
 
しばらく経って野崎さんは今までで一番大きなため息を吐いた。
「自分で、言った意味がわかる?」
「……ええ。私は、野崎さんの過去を聞いたとしても、野崎さんを嫌いになったりはしません。イメージが悪くなったりもしません。それから……えっと、何を聞いても“関係ない”……って思う……」
 自分で言い出して、途中で何を言っているのかわからなくなった。代わりに、野崎さんがとてもわかりやすく訊いてくれた。
 
「君は、《《俺の事が》》、《《好きなの》》?」と。
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