13番目の恋人
「ごめんね、ちょっと立て込んでいるから、お昼休み30分ずらすわね、先に行ってて」
 万里子さんにそう言われ、私は一人で社員食堂に向かった。
 
 「こっち、こっち!」
大宮くんが手を上げてくれてそちらへと向かった。野崎さんはいなくて、残念なのに少し、ほっとした。
 今日は鯖の味噌煮とほうれん草のごま和えとひじきの白和え。お味噌汁。一人暮らしなので色々食べられる社食は本当に嬉しい。
 
「な、この前大丈夫だった? 結構酔ってただろー」
「酔ってたみたい、私、全然気づかなくて。迷惑かけた?」
「いや、大丈夫だ。爆弾発言はちょいちょいしてたけど、ちゃんとジョークとして処理させてもらいましたよ」
「……あ、ありがとう」
「女子で恋愛経験ないって前置きしたあとの12人はちょっと、な」
「……昔のことなのよ」
「はー、まだ23年しか生きてねえっつの」
「……大宮くんは?」
って、聞いたら駄目なんだった。
 
「ごめんなさい、セクハラ」
「あはは! この前から思ってたんだけど、香坂さん結構な天然だよな」
 
 天然……?
「いいえ、私は完璧に卵から水槽にいたタイプよ。温度管理に水質管理もしっかりされているような……」
 間違いなく、育てられた魚だ。鯖を箸でほぐしながらそう言った。
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