13番目の恋人
「えー、そう、だな。ま、大事に育てられてんだな。で、海に放流されたらほいほい罠にかかりそ」
「……失礼な」
「水槽からでない方が良さそ」
 
むう、と大宮くんを見上げると、「ははっ」と笑った。

「で、野崎さんはちゃんと送ってくれた?」
「うん、もちろん」
「だよな、ジェントルマンだしな。あの人も天然……」
「野崎さんが? 」
「んー、ちょいちょいね。仕事はそんなことないんだけど、普段は割りとおっとりしてて、おばちゃんが一人で経営してる食堂でID決済出来るか聞いてた。ここの社食にも、財布と間違えてホッチキス持ってきてたし」
「……全然違うじゃない、財布とホッチキス」
「そ、結構可愛い」
大人の男性に可愛いだなんて、失礼だけど、確かに可愛い。

大宮くんが、私の顔を見て、ふっ、と笑った。
「俺が送ろうかと思ったんだけど……香坂さんは野崎さんに送って貰う方が嬉しいだろなって……だろ?」
 
かぁっと一瞬で顔に血が集まるのを感じた。
「え、やだ、そんな……」
咄嗟に何か誤魔化すような言葉も思い付かず、思い付いたとしても、顔で気づかれるだろう。
 
俯く、というくらいしか出来なかった。

「まあなあ、ほぼ女子全員が野崎さんに体向けてたもんな、あの時。ははっ! 香坂さんも例外じゃなかったし、わかりやすいタイプ」
そう言われても、俯くということくらいしか出来なかった。だからこそ“わかりやすいタイプ”なのだろうけれど。
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