13番目の恋人
「遅くなっちゃった」そう言って、前の席に万里子さんがやってきた。
 その隣に……野崎さん。そちらの方向はしっかり見れなかったけれど、腕の感じで彼だとわかる。でも、もう一人、その横に……俊……常務も一緒だ。
 
「珍しいですね、常務」
「二人を食事に誘ったら、社食で済ますって言うから」
「忙しい時に、安価でバランスよく食べられますからね。常務、野菜食べて下さいね」
 そう言って、万里子さんは俊くんのトレーから肉だんごの小鉢を取って野菜の小鉢に取り替えた。
「……はい」
「それから、食事は15分程で済ませて頂けますか」
「……はい」
 
万里子さんは相手が常務でも容赦なく、野崎さんが小さく肩を揺らした。

「お前だって、野菜……あ、結構バランス良さそうだな」
俊くんが、野崎さんのトレーを覗き込んだ。野崎さんのトレーには、鯖の味噌煮、ほうれん草のごま和え、ひじきの白和え……
 
私のお皿はほとんど食べ終えていたので、誰にも気づかれなかったと思うけれど、今日も彼と同じ物を食べてるのかと思うと少しだけ、嬉しくなった。
 
「……小百合ちゃん、何笑ってるの?」
万里子さんにそう言われ、慌てて顔を引き締めた。駄目だ、どうやら直ぐに顔に出るらしい。
 
「いいえ、万里子さんは常務にも容赦ないのだなと、思っただけです」

そう言うと、俊くん……もとい、常務がゴホゴホとむせた。
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