13番目の恋人
野崎さんがくれた乳酸菌飲料は、スッキリとした甘さで、とても美味しかった。パッケージには大きくヨーグルトだとその旨書かれていたので、これを牛乳だとはなかなか間違わないと思う。

「何笑ってるの?」と、この日は何度か万里子さんに言われる事になって、その都度
「感じ良く見えるように努力を」と、下手くそな誤魔化し方をしたのだった。
 
この週は忙しく、というより、この週からずっとなのだろう。万里子さんが早く帰らせてくれた私ですら、平均して会社を出たのは8時半は過ぎていたと思う。
 
──金曜日になって、家に着いた頃、電話が鳴った。

『やあ、企画営業室の野崎です』
「その言い方……はい、秘書室の香坂です」
と、私も彼に合わせた。
 
『ごめん、本当に間違えただけなんだ』と、彼が言ったもので吹き出してしまった。
「本当に、お疲れなんですね」
『あー、まだまだピークはこれからだしね。疲れてるとは言いづらいな。えっと、聞きたいことがあってね』
 
スマホから聞こえて来た、ざわつきに、外なのだとわかる。
 
こんな、時間までお仕事だったんだ。大宮くんの話が本当なら、彼はこの忙しさにプラスして引き継ぎもしているのかもしれない。
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