美青年幼馴染には恋人がいない。
二人だけの特等席
夜桜が好き。
いつ好きになったか覚えてないけど、ずっと昔から大好きな夜桜。

マンションから出てすぐ正面に桜が咲く公園がある。
昼間の小さな公園は子どもたちの遊び場で賑やかだけど、夜は誰もいない私だけの特等席。


「今日も来てたんだ。」


違った。夜は私と彰と二人だけの特等席。
特等席のベンチに座った私は自分が出てきたマンションの方に振り向く。


「彰もじゃん。どう?一杯飲む?」
「親戚のおじさんくさいよ。それ。まぁ貰うけど。」
「はーい!じゃあカンパーイ!っくぅ~仕事終わりのビールは最高ですな!」
「はは、じじくさ」
「五月蠅いな、彰のが今後じじくさくなるんだよ?」
「それは、まぁ、そうだね。」
「んふふ、でしょー?」
「…もう酔ってるの?」
「酔ってないけど、酔ってるかなー。」
「どっちだよ」


他愛もないいつも通りの会話。


「仕事の進捗はどーですか!彰先生!」
「順調ですよ、薫先生。」
「そーですか!それはいい事ですね!彰先生!」
「そーですね。そちらはどうですか?薫先生」
「いつも通りですよー。人事ってほんとやっかい。明日も社員の面談ですよ!しかもそろそろ新卒の為に準備入らないと~。」
「でもリモートできてよかったな。」
「それはそう。結構くるんだよね~、面談で注意とかすると泣いちゃうし。私が泣きたい!」
「でも人と会話するの好きじゃん、薫は。」
「彰先生は苦手だもんね。でも問題ないじゃん、高校から書いてた小説がヒット!食べてけるんだしノープロブレム!!」
「はは、そうだね。」


でも今日でこの他愛無い会話はおしまい。


「…」
「…」


「ねぇ、彰」
「ん?」
「…今日で夜ここにくるのやめるね。」


びっくりしてこっちをみてくる彰。
私だって苦肉の策だった。


「彼氏にさ、彰と二人で夜ほぼ毎日話してるの何故か知られてさ。怒られちゃった…。」
「…十五分くらいだけどね。」
「それでもダメなんだって。雨の日は話してないって言ってたんだけどね…ダメだった。ごめん。」


今日リモート飲み会を断った時、同僚の南ちゃんに話した内容たぶんそのまま伝えられたんだと思う。
南ちゃん、口軽いからね。


「それに私彼氏と結婚するかもしれないし、こういうのあんまりよくないって」
「…。」
「…彰、本当にごめん。」
「…。」
「…先、帰るね。」




━━━がしっ



「っ!…彰?手…。」


帰ろうとした私の手を彰が掴む。





「…薫。薫の彼氏に合わせて。」




平凡な日常が壊れる音がした。
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