美青年幼馴染には恋人がいない。



今なんて言った?
やっぱり会わないでってなんで?



『薫さん、黒木彰先生の小説呼んだ事あるかな?』
「…えっと、ないよ。うん。一回も。」
『そうだよね。…これからも読まないでくれるかな?』
「え?…幸助さん、どういう?」
『薫さん、お願い。』
「…うん。これからも読むつもりはないよ。」
『そんなに小説って苦手?』
「ううん。苦手じゃないよ。それよりも漫画とかアニメとか映画とかドラマとかが好きなだけで小説が嫌いなわけじゃないよ。結構恋愛小説とか読むしね!」
『だったらどうしてだい?』


そう、私は小説が苦手なわけじゃない。
きっと友達とかは私が小説が苦手って思ってるかもしれない。

でも本当は違う。
漫画もアニメも映画もドラマも物語があるものはみんな大好き。
それがハッピーエンドで終わるものなら特に好き!
それは小説でも言えること。
文字だけでいろんな世界を作れる小説はすごい。
キラキラしててたまに怖いのもあるけど、どれも唯一無二の物語。
一人一人のキャラクターの人生が書かれてて面白くないわけがない。

…だけど彰の小説は読んでない。
なんども本屋さんで置いてあるのを見た。
買おうと手に取ってみたこともあった。
けどただの一度も読んだことはない。

理由は簡単。



「彰の小説を読んだら”彰”として見れなくなりそうで…。」
『…。』
「ほら!彰ってあんな外見でしょ?かっこいいのは十分理解できるんだけどさ、私一度も彰の事男として見たことないの!…びっくりでしょ?」
『…。』
「小学生・中学生・高校生、ずーっと女友達に言われた”そんな嘘つかなくてもいいのに”って。本当の事なのに。」
『薫さん…。』

「あんな外見だし、浮世離れしてるし、ミステリアスだし、確かに物語の主人公みたい。でもね、彰って口悪いし、意地っ張りで負けず嫌い、それなのに優柔不断で小学生の頃お菓子を買うだけで三十分も悩んだんだよ!中学生の頃迷子になって迎えに行ったら意地張って”迷子になってない”なんて言い出したりしてさ!…だから弟みたいって、…私が引っ張ってかないとって思ってる。」

『だから読まないのかい?』
「うん。いつまでも”橘薫の幼馴染の黒木彰”としてみたいんだ。”人気小説家黒木彰先生”じゃなくてね。」
『…そういうことなんだね。…うん、分かった。』


彰の小説を読んだらきっと私はお姉ちゃんを卒業しなくちゃいけない。
それはとってもいい事だと思う。でもなんでだろう。
嫌とは思ってないのに、


どうしてこんなに胸がモヤモヤするんだろう…。
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