美青年幼馴染には恋人がいない。
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僕は刺激的な恋がしたいのだろうか。
いや刺激的な恋は怖いから嫌だな。
じゃあ僕は緩やかで日常的な恋がしたいのだろうか。
うんしたい。だけど勇気がないからきっと出来ないのだろう。
でも僕は君を愛してしまった。
『カーチャン』著者:黒木彰
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私が黒木彰先生の小説を読んだのは大学生の時。
帯の言葉に惹かれて買ったのをよく覚えている。
私も主人公のように一途に愛せる女性が出来たらいいなと思った。
そんな時に出会ったのが薫さん。
『カーチャン』のヒロインのような明るく気さくで鈍感な彼女。
好きになるのに時間はかからなかった。
”彰”が黒木彰先生と分かった時、怖くなった。
私の好みと黒木彰先生の好みは似ているから。
だから恐る恐る聞いた。
『薫さん、黒木彰先生の小説呼んだ事あるかな?』
「…えっと、ないよ。うん。一回も。」
薫さんが読んでないと言った時ひどく安心した。
あの小説には黒木彰先生の愛がある。それを痛いほど感じる。
だからこそ薫さんには知ってほしくなかった。
だからつい、また言葉がでてしまった。
『そうだよね。…これからも読まないでくれるかな?』
「え?…幸助さん、どういう?」
『薫さん、お願い。』
「…うん。これからも読むつもりはないよ。」
薫さんを大切にしたい。大事にしたい。
けどそれは私だけじゃない、きっと彼もそう思っている。
何故かそう確証できる。
でもそれと同じように彼女も…
「あんな外見だし、浮世離れしてるし、ミステリアスだし、確かに物語の主人公みたい。でもね、彰って口悪いし、意地っ張りで負けず嫌い、それなのに優柔不断で小学生の頃お菓子を買うだけで三十分も悩んだんだよ!中学生の頃迷子になって迎えに行ったら意地張って”迷子になってない”なんて言い出したりしてさ!…だから弟みたいって、…私が引っ張ってかないとって思ってる。」
彼を信頼し、愛しているのだと確信した。