すてきな天使のいる夜に〜ordinary story〜



「先生…ここは?」


目が回る程の高いビル。



まるで、お金持ちの人が集まるような場所。



「沙奈、いきなりごめんな。」



そう言いながら、大翔先生は私の肩を引き寄せ歩き始める。



どうして、ここに連れて来たのだろうか。



私とは無縁の場所。



大翔先生が、連れて来た所はブランド品が集まるような場所だった。



こんな所、来たことがない。



だけど、なんだろう…



来た事ない場所だからかもしれないけど、すごく心が引き寄せられる感じがした。



「沙奈、俺の夢を叶えてくれるか?」



「夢?」



「俺さ、心から愛している人と一緒にこういうお店に来ることが夢だったんだ。沙奈と一緒にやりたかった事の1つでもある。


沙奈のほしい物を1つプレゼントさせてほしい。」



私の視線を捉えながら、大翔先生は少し頬を赤くしていた。



「だ、だけど私…


こういう所、来たこともないし…


それに、私自分のほしいものなんてよく分からないのに…」



いいの?



きっと、こういうお店は皆1つ1つ高いんじゃないの?



適当に選んだりはしないけど、自分がピンとくるものなんてあるかも分からないのに…



そんな私のために、お金を無駄にするだけじゃ…



大翔先生から受け取れる物は、何でも嬉しいし大切に使いたいと思う。



だから、大翔先生が選んでほしい。



「欲しい物を買うこと。


きっと沙奈にとって、1番難しいと思うんだ。


それは十分に分かっている。


でも、前に紫苑と翔太がついてくれば選ぶことができるって言ってただろう?


少しずつ、自分を取り戻してほしいって思うんだ。



心に縛り付けた感情の制御を、紐解いてほしい。


そうすればきっと沙奈も、自分の心や感情に素直になって欲しい物が見つかると思うんだ。


そんな緊張しなくて大丈夫だから、何となく可愛いものとか綺麗とかって思う物があったら教えてよ。


欲しいっていう感覚とは違うと思うけど、ゆっくり考えて選んでくれればいいから。」



「だけど、時間は大丈夫なの?」



「ああ。皆が来るのは午後からだからな。」


さすがに、午後まで悩んだりはしないけど…



そんなに長い時間いたら、お店の人にも迷惑だよね?



「分かった。一緒に選んで。」



「ああ。何時間でも。」


15階建てのビルを、休憩しながら大翔先生と回った。



最上階のお店を回った後に、屋上のベンチに腰を降ろした。



本当に目が回りそう。



全てがキラキラして見える。



屋上に出て外の空気を吸い込み、私はやっと落ち着いてきた。



「どうしよう…本当に分からないよ…


可愛いなって思うものはあったけど、それが本当に欲しいのかよく分からない…」



「もう1度、その品物があったお店に行ってみるか?」



「うん。」



少し休憩を取ってから、大翔先生と手を繋ぎ再びそのお店へ向かった。
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