すてきな天使のいる夜に〜ordinary story〜
「大翔、今日はありがとう。」
ワインのコルクを開けながら、紫苑はそう言葉にした。
「いや、それを言うなら俺の方だ。
こんなに沙奈のそばにいられたのは初めてだった。
紫苑、翔太、ありがとう。」
病院へ入院している時も、なるべく沙奈のそばにいようと心がけてはきたけど、長い時間そばにいられたわけではないから、この2日間は1番沙奈の傍にいられたと思う。
1分、1秒足りとも無駄にしたくなかった。
沙奈と一緒に過ごす時間はどこを取っても愛おしく尊い時間だと感じた。
「沙奈は、何か2人に話しているのかな?
時々、不安な表情を見せる時があるから心配なんだ。」
優しい笑顔で、俺に笑いかける沙奈。
だけど、そんな沙奈は辛い過去を背負って生きているんだよな。
今はあまり、そういう影を見せなくなってきたけど、俺は沙奈の背負っているものを一緒に背負えているのだろうかと考える時があった。
沙奈の苦しみや痛みは、沙奈にしか分からないものであって、完全に理解することはできない。
仕方ないとは思うけど、時々寂しそうに俯く沙奈を見ると、まだ不安を抱えているんだろうと感じる。
「沙奈は、誰よりも人の気持ちに敏感だから少し心配なところもあるんです。
沙奈も、心配してました。
大翔先輩が、大人で心も広い人だから自分とは合わないんじゃないかって。
だけど、沙奈も高校生とは思えない程考えがしっかりしてるので心配はないと伝えたんですが…。」
翔太が言ったことは、昨日沙奈も言っていたよな。
「翔太達に、相談できたんだな。」
「初めてだったよ。沙奈の恋愛相談に乗ったのは。
嬉しかったけど、少しだけ切ない気持ちもあった。
沙奈も、大翔のことが本気で好きなんだと思う。」
「沙奈のこと、責任持って俺が幸せにする。」
せっかく掴んだ幸せを、そう簡単に離したりはしない。
この先も、ずっと守ると決めたたった1人の女性だから。
その愛おしい温もりのためなら、俺に出来ることをしてあげたい。
お酒の酔いと、外から入る心地よい夏の夜風な吹かれて幸せな気分を味わっていた。