すてきな天使のいる夜に〜ordinary story〜
「先生、お風呂ありがとう。」
「いいよ。さっぱりしたか?」
「うん。さっぱりしたけど身体が熱い。」
お風呂から出て、血流が良くなったからか頬や膝がピンク色に色付いている。
しかもなんだこの格好は…
この部屋着は今までに見たことはなかった。
入院期間が長く、沙奈の部屋着をたくさん見てきたけど…
その部屋着の下は、半ズボンですらっと伸びる白い生脚がやけに色っぽい。
そんな格好…
まるで襲って下さいと言わんばかりの姿じゃないか。
「沙奈、抱いていいか?」
「えっ?」
抱きしめるくらいなら、いつもしている事だから…
沙奈の返事を聞く間もなく、俺は沙奈を抱き上げ自分と向かい合う形に座らせた。
「ちょ、ちょっと…」
恥ずかしそうに綺麗な髪を耳にかけながら俯く沙奈の姿が、やけに色っぽい。
沙奈の1つ1つのパーツをちゃんと見れるように、背中まで伸びた綺麗な髪を反対側へ送る。
お風呂上がりで、髪を乾かしたばかりなのかシャンプーの匂いがふんわりと香り、うるさいくらいに心臓の鼓動は早くなる。
ダメだ…
自分のしたこととはいえ、好きな人の匂いには敵わない。
「先生?」
そんなことを考えていると、沙奈は突然俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「…私が、大人になるまで待っててくれる?」
「えっ?」
「大翔先生、すごくかっこいいし看護師さんや女医さんも先生のこといつも目で追ってるし…
明らかに、先生にときめいていますっていう人達たくさんいるから…
私が20歳になる前に、先生が他の人と結婚とかしたらどうしようって時々思うんです…」
「沙奈…」
「あっ!ごめんなさい!
私、そんなこと言うつもり…な…」
気づいたら、俺は沙奈の唇を塞いでいた。
そんなこと、あるわけないだろう?
俺には、沙奈しかいないんだ。
俺の人生に隣にいてほしいと思う女性は沙奈だけだから。
他の女と結婚をさせられるとしたら、結婚なんか絶対にしない。
そもそも、俺はずっと誰かと一緒になんてなりたくなかった。
恋愛感情というものがこの歳になってもよく分かっていなかった。
俺に近寄る女なんて、俺の体と金銭的な目的だった。
そんな軽い関係だったから、こんなにも本気になることなんてなかった。
抱いては振っての繰り返しで、何の感情も湧かなかった。
誰かを愛したことなんて1度もないし、この温もり以上に愛おしい存在なんて、この先何があったとしても現れることは無い。
「沙奈…」
「大翔…先生…」
途切れ途切れになる口付けの中、沙奈は可愛い声で俺の名前を呼ぶ。
その声が、何とも色っぽい。