小さな恋のうた
始まり(柏木×稲沢)
「あのさ、柏木ってスマホ持っとる?」
休み時間に先生から頼まれ集めたプリントを持って行き、その教室へと帰る途中、同じクラスの男子から「少し良か?」と声を掛けられた。少し歩いて誰もいない渡り廊下に差し掛かった時、くるりと私の方に向くと、そう口を開いたのだ。
もちろんスマホは持っている。彼の言葉に無言で頷くと、彼はぽりぽりと頬を掻きながら、何か恥ずかしそうに私を見ている。
「あ、あのさ……スマホ持っとるならLINEやっとる?」
ごにょごにょと小さな声。私だけに聞こえる位の。また私は頷いた。
「な、ならさ、良かなら俺とLINEば交換してくれん?」
稲沢 潤。中三。彼の名前である。
勉強もできるし、スポーツも得意。周りにも良く気を配り、面倒見が良い。よく他の男子とバカな事ばっかりしているけど、正直、女子からモテている。
私は背が高い。百七十五センチ。男子よりも大きかったりする。そのせいもあって、よくからかわれる。これで美人だったり、可愛かったら良かったんだけど、並だ。普通なのだ。スタイルもさほど良いわけでもない。勉強も普通。特別、明るくもなく、いつも女子バスケ部(女バス)の仲間とばかりいる。
そんな私に何故、稲沢君がLINEを?
私と稲沢君は身長が同じ位で、向かい合うと、ちょうど目線が同じである。今がその状況なんだけど、全く私と目を合わせてくれない。
からかわれているのだろうか?それとも、何かの罰ゲーム?
良く男子から身長の事でからかわれている私は、直ぐにそう思ってしまう。
黙り込んでいる私に稲沢君は、また、ぽりぽりと頬を掻いている。でも、さっきとは違って済まなそうな顔をして。
「ごめんな、困るよね。そんなに話した事もなか男子から……突然、LINEば交換してっち言われても」
そうじゃない。困ってるんじゃない。私は胸の中にある言葉を言おうとしたが、喉の途中で止まっていた。
「本当にごめん。柏木さん、この事は忘れてくれん?」
そう言うと寂しそうに笑いながら、私の前から立ち去ろうとした稲沢君の制服の裾を思わずを掴んでしまった。
「ち、違う……男子からLINE聞かれる事とか初めてやし、驚いただけやけんで……それに、私……スマホ、鞄の中に入れとるけん」
私の言葉を聞いた稲沢君が、メモを取り出しさらさらと何かを書くと私へと渡してきた。それを私が受け取った事を確認すると、照れ笑いの様な笑顔を浮かべた。
「これ、俺のID。良かなら登録しとって」
私は稲沢君からメモを受け取ると、そのメモを半分に破り、自分のIDを書いて稲沢君へと渡した。
「わ、私のID……」
驚きを隠せない稲沢君が、恐る恐る受け取ると、メモをじっと眺めている。きらきらと輝く瞳。
「ありがとうっ!!」
にかっと花が咲いた様な稲沢君の笑顔。そのメモを制服の胸ポケットへとしまうと、もう一度、私へお礼を言い、大きく手を振りながら教室へと戻っていった。私も稲沢君へ手を振り返しながら、姿の見えなくなった後も廊下の先を見つめていた。
休み時間に先生から頼まれ集めたプリントを持って行き、その教室へと帰る途中、同じクラスの男子から「少し良か?」と声を掛けられた。少し歩いて誰もいない渡り廊下に差し掛かった時、くるりと私の方に向くと、そう口を開いたのだ。
もちろんスマホは持っている。彼の言葉に無言で頷くと、彼はぽりぽりと頬を掻きながら、何か恥ずかしそうに私を見ている。
「あ、あのさ……スマホ持っとるならLINEやっとる?」
ごにょごにょと小さな声。私だけに聞こえる位の。また私は頷いた。
「な、ならさ、良かなら俺とLINEば交換してくれん?」
稲沢 潤。中三。彼の名前である。
勉強もできるし、スポーツも得意。周りにも良く気を配り、面倒見が良い。よく他の男子とバカな事ばっかりしているけど、正直、女子からモテている。
私は背が高い。百七十五センチ。男子よりも大きかったりする。そのせいもあって、よくからかわれる。これで美人だったり、可愛かったら良かったんだけど、並だ。普通なのだ。スタイルもさほど良いわけでもない。勉強も普通。特別、明るくもなく、いつも女子バスケ部(女バス)の仲間とばかりいる。
そんな私に何故、稲沢君がLINEを?
私と稲沢君は身長が同じ位で、向かい合うと、ちょうど目線が同じである。今がその状況なんだけど、全く私と目を合わせてくれない。
からかわれているのだろうか?それとも、何かの罰ゲーム?
良く男子から身長の事でからかわれている私は、直ぐにそう思ってしまう。
黙り込んでいる私に稲沢君は、また、ぽりぽりと頬を掻いている。でも、さっきとは違って済まなそうな顔をして。
「ごめんな、困るよね。そんなに話した事もなか男子から……突然、LINEば交換してっち言われても」
そうじゃない。困ってるんじゃない。私は胸の中にある言葉を言おうとしたが、喉の途中で止まっていた。
「本当にごめん。柏木さん、この事は忘れてくれん?」
そう言うと寂しそうに笑いながら、私の前から立ち去ろうとした稲沢君の制服の裾を思わずを掴んでしまった。
「ち、違う……男子からLINE聞かれる事とか初めてやし、驚いただけやけんで……それに、私……スマホ、鞄の中に入れとるけん」
私の言葉を聞いた稲沢君が、メモを取り出しさらさらと何かを書くと私へと渡してきた。それを私が受け取った事を確認すると、照れ笑いの様な笑顔を浮かべた。
「これ、俺のID。良かなら登録しとって」
私は稲沢君からメモを受け取ると、そのメモを半分に破り、自分のIDを書いて稲沢君へと渡した。
「わ、私のID……」
驚きを隠せない稲沢君が、恐る恐る受け取ると、メモをじっと眺めている。きらきらと輝く瞳。
「ありがとうっ!!」
にかっと花が咲いた様な稲沢君の笑顔。そのメモを制服の胸ポケットへとしまうと、もう一度、私へお礼を言い、大きく手を振りながら教室へと戻っていった。私も稲沢君へ手を振り返しながら、姿の見えなくなった後も廊下の先を見つめていた。
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